藤 公晴, 佐々木 豊志, 下條 真司, 後藤 欣司, 前田 済
青森大学付属総合研究所SDGs研究センター
The Shin-yu Charter and Its Educational Significance: Practicing Reinhabitation in Contrast to the Multiplanetary Species Vision
Kimiharu Fujii, Toyoshi Sasaki, Shinji Shimojo, Kinji Goto, Wataru Maeda
Aomori University Research Institute for Comprehensive Studies, SDGs Research Center
Abstract
This paper examines the Shin-yu Revitalization Project, an off-grid outdoor educational facility located in Towada-Hachimantai National Park, as a case study of place-based, dwelling-oriented education. The Charter of Shin-yu, emphasizing environmental carrying capacity, appropriate technology, collaboration, and altruistic practice, is theoretically framed through ecological thought, including Gibson’s concept of affordances and Ingold’s dwelling perspective. In contrast to technology-driven visions of outward expansion, the project proposes an alternative model of sustainability grounded in the re-inhabitation of existing places. The study argues that communal living and embodied labor cultivate prosocial behavior, responsibility, and character formation, thereby suggesting the educational potential of a dwelling-based approach in an increasingly technologically advanced society.
Keywords ; Outdoor education, Reinhabitation, Dwelling perspective, Embodied learning, Sustainability
| 図1 |
1.はじめに
本稿では, 学校法人青森山田学園が昭和47年に十和田八幡平国立公園内に設置した温泉宿泊施設「新湯」の未来志向の教育的な利活用を鑑みて, 2025年に制定した「新湯憲章」を解説する. 同憲章は, 国立公園内の教育施設としての環境容量への配慮, 環境低負荷型の技術活用と自然復元, 謙虚さと協働, 次世代への実践的継承など5項目からなる. 各項目の内容は, 野外教育の理論と実践を基盤に昨今の環境保全や技術・文明論など, 人類的危機に対する対応の言説とも関係している. こうした言説との関係を整理することは, 新湯の教育的な意味づけと理論的な位置づけ, そして今後の施設利用の可能性を耕すことにつながる. なお, 新湯と新湯再生プロジェクトの詳細は本紀要第27巻1号掲載の「新湯再生プロジェクトの可能性と課題:教育の質向上にかかる試金石」を参考にしてほしい(図1).
1970年代以降, 米国の大衆文化, 環境思想ならびに人文学・社会科学の諸領域において, 環境問題への人類的な選択肢として「他所への移行」を志向する立場と「すでに居る場所にとどまり住み直す」ことを重視する立場との二分構図は繰り返し形成されてきた問題系でもある[1]. この構図の現代的な表出として, 米宇宙企業スペースX社の会長 イーロン・マスク氏の唱える Multiplanetary species(多惑星種)
| 新湯は, 十和田八幡平国立公園第2種特別区域内に位置し, 学校法人青森山田学園が約50年前に教育目的で設置したオフグリッド施設です. その豊かな自然環境は, 野外での生活技術やコミュニケーション能力, 災害対応力の向上だけでなく, 地球的視野と未来志向の価値観を育む場となっています. 青森山田学園の校訓「誠実・勤勉・純潔・明朗」に基づき, 私たちは以下を共通の行動規範とします. 持続可能な規模の維持(Carrying Capacity)利用者数や活動内容が施設や環境に過度な負担を与えないよう, 適正規模を常に意識します. 自然との共生と技術活用(Human Ecological Potentials)太陽・地熱・雪・水・森林・生物の恵みに感謝しつつ, 観光人材育成や, 情報とエネルギーの地産地消などに取り組みます. 生態系とのバランスを尊重し, 最低限の影響と復元・再生を実践します. 謙虚さと協働(Values-based Education)謙虚で素直な姿勢を重んじ, 多様な人々との協力を大切にします. 次世代への実践的継承(Real-life Application)利他を軸にした集合的無意識の考えに則り, 新湯での学びを次世代の暮らしや人格形成に活かします. 精神的指針(Philosophical Foundation)自我の意識は個人から集団, 社会, 宇宙へと進化するこの方向は古い聖者の踏みまた教へた道ではないか新たな時代は世界が一の意識になり生物となる方向にある 正しく強く生きるとは銀河系を自らの中に意識してこれに応じて行くことであるわれらは世界のまことの幸福を索ねよう 求道すでに道である ― 宮沢賢治『農民芸術概論綱要』序論より 図1 新湯憲章 |
構想は, 人類文明を地球という単一の惑星条件から切り離し, 技術によって複数の居住地へと分散させることで存続リスクを回避しようとする. こうした考え方はフロンティア思想の更新形として位置づけられる. 本稿で扱う新湯憲章は, そうした技術観を鑑みつつも, 環境収容力を第1項に位置づけ, 他者や集団, 自然環境との関係性の中で行動する際に働く, 利他性に基づいた行動原理を育むことを志向しており, 後者の立場にあたる. この志向とは1970年後半保全生物学者のReymond F. Dasmannや環境運動家のPeter Berg, 詩人のGary Snyderらが主張したReinhabitation (棲み直し) の意識や想像力を育むことにつながる. 本稿では, これらの言説と新湯憲章の関係性を項目ごとに整理し, 新湯で試みる教育実践の意義の奥行きと理論的な射程を整理することを目指す.
新湯は, 源泉掛け流しという特徴のみならず, 現地の環境容量と未電化・無電波という条件のもと, 野外での生活技術や他者とのコミュニケーション能力, 観光コンテンツ開発やIT技術の活用, 災害時の対処能力の向上に加えて, 環境保全にかかる責任感や社会のあり方に向けたイメージや価値観の醸成など, 野外教育をベースに実践的で複合的な教育価値を有している. そして, 新湯再生プロジェクトは, 青森大学の複数の教員を中心に2019年より, 公益社団法人日本技術士会東北本部青森県支部やKDDI財団, 地元事業者などによる支援のもと, 学生と教員, 外部専門家が協働し, 水道復旧, 浴槽修繕, 環境整備, ICTを活用したモニタリングなどを毎年, 段階的に進めてきた.
とりわけ2024年から, 総合経営学部の後藤欣司ゼミとソフトウェア情報学部の下條真司ゼミの参画により, 厳冬期の観光コンテンツの開発や, 米宇宙企業スペースXの衛星通信網「スターリンク(Starlink)」活用によるリモートモニタリングの実証実験などに取り組んでおり, 現地における通年型の教育と研究, 地域貢献の幅が広がった. 直近の例では, 2026年冬期に上述の後藤欣司講師の同学部のフィールドツーリズムの指導のもと, 青森市の山岳ガイドの協力を得ながら, 学生5名がスノーシューのプライベートツアーを開発, 試行する予定である. こうした厳冬期の施設利用は初めてであり, 今後の通年型の利活用に伴い, 第三者による突発的利用も予想される.
2.新湯憲章
同憲章は, 以上のような多様な利活用を想定して2024年冬から策定に着手し始め, これまで関係教員のコメントを反映させながら現在の形になった(図1). 前文には, 新湯の制度的および組織的, 教育的位置づけを明記し, その維持と発展が施設所有者である青森山田学園の校訓を踏まえることを明記した.
2-1. 持続可能な規模の維持(Carrying Capacity)
Carrying Capacityは生態学の基本用語「環境収容力」で, 環境問題全般, とりわけ持続可能性を考える上で最も重要な視点であるため. 本憲章の第1項に位置づけた. その空間の自然環境の質を損なうことなく, 受け入れることのできる人間の活動または汚染物質の量と定義される.
新湯の場合, 宿泊用の建屋が3棟, 脱衣用の建屋が1棟, 地面から源泉が複数自噴する源流の脇にある. 収容定員は二つの宿泊棟が使用可能となった場合15-20名程度で, 浴槽も一度に4名程度が入ることのできる規模である. 飲料水は800m程離れた水源から2020年度から3ヵ年かけて轢いたものである. トイレは穴を掘って行い, 炊事は基本的に薪で行う.持ち込んだ食材等で生じた廃棄物は運び出し, 大学まで持ち帰る.同地へのアクセスは酸ヶ湯キャンプ場手前を起点とする登山道(旧城ケ倉渓流遊歩道)のみで, 距離約800m高低差150m程の場所にある.
以上の条件を踏まえてLeave no traceの実践を心がけることとしている. Leave no trace の訳は「足跡を残さない」を指し, 自然環境への影響を最小限に抑え, アウトドアを楽しむための世界的な環境倫理教育プログラムとして1980年代に北米で誕生し, 現在は約90カ国で利用されている. なお, 青森大学は2025年7月に特定非営利活動法人リーブノートレイスジャパンと人材育成に関する連携協定を締結している. 2025年度後期開講の一般教養科目「環境論」の中で, Leave no trace の考え方と, 新湯再生プロジェクトの取り組みの紹介を抱き合わせで実施した.
2-2 自然との共生と技術活用(Human Ecological Potentials)
本項目は, 上述の第1項に抵触しない範囲で技術の活用を進める考え方で, 1960年代以降, 注目を集めた適正技術(Appropriate technology)にも深く通ずる. また, ラムサール条約(正式名:特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約)第2条で用いられる賢明な利用(Wise Use)の考え方を踏まえた技術の活用を目指す. 人類はこれまでさまざまな技術を発明し利便性を享受してきたが, 新湯が置かれた自然環境と制度を踏まえて, 一定の制限をかける方針を本項で明示した. こうした点を踏まえて, 同地で技術の利活用を図る姿勢を示すべく, Human ecological potentialsという英語フレーズを充てた.
新湯および周辺地域は制度的に自然保護法で定められているため, 建築など開発行為が当該許可基準に則して制限される. そのため, 建屋の増改築や通信, 熱利用, 発電など, 当該制度および第1項の許容範囲内での技術利用を教育目的の範囲内で進める. 上述の通り, 2024年度からは教員4名体制のもと, Starlink を活用した遠隔監視を含む通信基盤の高度化や, 災害時・平時双方に対応するデュアルモード型インフラの実証, 地域課題への対応に取り組んでいる(KDDI財団協賛).
なお, スペースX社会長のイーロン・マスク氏は, 人類が地球という単一の惑星に依存し続けることの脆弱性に対する問題意識からMultiplanetary species(多惑星種)になる構想で同社のロケット開発事業を展開しており, Starlinkの開発と普及がその達成のための手段の一つという見方は関係者で共有されている[2].
また, 地熱の分野について, 弘前大学の松田らが新湯周辺の熱水の水質分布特性と地熱貯留層温度の調査を行い, 貯留層温度が 150℃~ 160℃である可能性を指摘している(松田ら 2017). 2025年度から青森大学薬学部のチームが温泉泥などの調査に着手しており, 火山水や熱利用, 薬草などの分野への広がりが予想される.
2-3 謙虚さと協働(Values-based Education)
ここで挙げたValues-based educationは価値教育と訳され, 自発性や勇気, 謙虚さ, 奉仕など, 人格形成の側面を, 道徳や倫理などの別科目で教えるものでなく, 各教科のさまざまな学習機会で実践を促しながら能力形成を図るアプローチである. 国立環境政策研究所が学習指導要領の改訂に向けて発行した報告書「諸外国の教育課程における人間性の涵養」(2021)によると「明⽰的・暗黙的な学校の活動であり,⽣徒の価値についての理解と知識を促進し,スキルと資質を⾝に付けさせ,個⼈的にもコミュニティの⼀員としても特定の諸価値を実現できるようにする(p.123)」と英国の例を挙げる.
こうした価値教育は海外にも見られ, Harrow Schoolなど英国の寄宿制学校では共同生活や奉仕活動を通じて人格形成を重視する実践が行われている. 新湯も同様に, 生活実践そのものを教育の中核に据える点に特徴がある.
本憲章の前文に組み入れた青森山田学園の校訓「誠実・勤勉・純潔・明朗」も本項に直結することは強調するまでもない. また, 上記の通り, 新湯再生プロジェクトは野外教育をベースに, 施設の補修や維持管理など, さまざまな他者と多様な協力・相補的な役割分担を要するアクティビティが伴う. また中には, 身体的なリスクを伴う作業もあることから, 謙虚さと協働を明示し, 個人・集団のリスクの未然回避と個々の人格形成を促す指針と位置づけた.
2-4 次世代への実践的継承(Real-life Application)
環境収容力と技術の適正活用, 謙虚さと協働という, 三つの実践系の原則を踏まえた学びとは, 新湯の学びの核心と位置づけても過言でない. それは, 個々の知識や技能の向上もさることながら, 地球的規模の環境問題を昨今メディア等で見聞きする私たちの「人間とは?文明のあるべき姿とは?」「各自が育む生きる力とは?」といった実存への問いと適応力にも働きかけるものである. 第4項はこのような点を踏まえて, 心理学者カール・グスタフ・ユング(C.G. Jung. 1875-1961)が提唱した「集合的無意識」に関連づけて, 新湯の学びに内包された普遍的な側面を強調した.
利他を軸にした集合的無意識の考えに則り, 新湯での学びを次世代の暮らしや人格形成に活かします.
ユングの集合的無意識とは, 個人の経験を超えて, 人類に共通する価値観や行動様式, 象徴的イメージが無意識の深層に共有されているという考え方を指す. そして「利他を軸にした集合的無意識」とは, このユングの理論を踏まえつつ, 自己の利益を相対化し, 他者・集団・自然との関係性の中で行為を選択する志向性として再解釈したものである. 新湯での学びは, 利便性に満ちた日常とは異なる環境で繰り返される協働作業や生活実践を通じて, 自らの行為が他者や場所の維持に直結していることを体感的に理解(身体化)させ, 行動原理として育むプロセスと位置づけた. また, 集合的無意識を用いることで, 若者の社会的孤立と同時に他者とのつながりへの関心を喚起する意図も含まれることを書き添えておく.
このような周囲の環境の諸条件に適応する形で個人および集団の行為が生成される, 環境適応型の暮らしの型は, 1970年代以降, 環境運動の考え方として注目・支持を集めたバイオリージョナリズム(Bioregionalism)の旗手Peter Bergが「Figures of Regulation(行動や関係性を調整する原理)」として唱えている(Berg 1982). Berg(1982)は評論Figures of Regulation: Guides for Re-Balancing Society with The Biosphereで, Figures of Regulationとは法律や制度のような外からの統制ではなく, その土地で生きるために, 人と自然, 人と人との関係をうまく保ってきた「暗黙のルールや知恵のまとまり」と示し, 気候に合わせた暮らし方, 資源を使いすぎない慣習, 共同体の中での役割分担といった例示を行う.
このような考え方は, 多少の差異はあるものの近年, 英国の人類学者Tim Ingold(ティム・インゴルド) によるDwelling perspective の考え方にも非常に近いといえる. インゴルドは, 人間の生を, あらかじめ与えられた環境の中で営まれるものではなく, 世界との継続的な関わりの中で生成される過程として捉える立場である. すなわち, 社会的秩序や規範は抽象的なルールや表象から生じるのではなく, 特定の環境関係の中で暮らしの実践の積み重ねから立ち現れるとする. そしてこの視点は, J.J.ギブソンの生態学的心理学, とりわけアフォーダンス概念を踏まえ, 環境が行為者に対して直接的に行為の可能性を提供することを強調する(Ingold 2000). また, 直近の論考では慶應義塾大学の安宅和人(2025)が, 都市集中型社会に代わる「疎空間」という社会-空間モデルを提示し, インフラ・教育・食・エネルギー・ヘルスケアなど多方面から人間と自然が共存し機能する生活圏の再設計を論じている. 本稿では, これら既存の考え方との共通性の指摘程度にとどめて, 別稿で詳しく紹介することとする.
本項の実践的継承とは, 上記を踏まえて新湯での共同生活や身体性を伴う体験~労働~学びが, 非認知レベルで「ともに生きる」ための態度を育むための機会として捉えた上で, その後の日常生活のさまざまな場面においても振り返り, 思考判断の足がかりとなることへの願いでもある.
2-5 精神的指針(Philosophical Foundation)
本憲章の最後となる第5項に宮沢賢治『農民芸術概論綱要』序論の抜粋を掲げた理由は三つある.
まず, 宮沢賢治は詩人・童話作家であると同時に, 法華経信仰を基盤とする仏教思想家であり, 農村教育および科学教育に携わった実践的知識人であった点である. 彼が1926年に著した同綱要は, 文学論というより, 生活と労働の現場に根ざした社会・教育実践の宣言文であり, 羅須地人協会をベースとした地域の実践・啓発活動の理念的基盤となった. 日々の暮らしそのものを人格形成の場と捉えるこの姿勢は, 新湯の学びが目指す教育理念と重なっている. ゆえに賢治の言葉は単なる美辞麗句ではなく, 新湯の精神的基盤を示す指針として位置づけられる.
次に, 彼の示した「自我の意識が個人から集団, 社会, 宇宙へと進化する」という視座が, 本憲章第1項から第4項に通底する関係性の思想と深く呼応している点である. この発想は, 万物が相互依存のもとに成立するという仏教の縁起の世界観を背景とし, 人間を個別化した主体ではなく, 自然や他者と結びついた存在と捉える立場である. このような宇宙空間を射程に入れた意識の拡大は, 宗教的直観と科学的視座を取り混ぜながら, 人間の生をより大きな生命的全体の中に位置づけ直そうとする探究の試みといえる.
最後に, 「求道すでに道である」という言葉は理想の到達よりも, 日々の行為そのものを尊ぶ実践倫理が示されている. 新湯での共同生活や身体性を伴う労働は, 教員と学生という固定的な役割を超え, 互いに学び合う関係性の中で自己を形成していく営みである. このような, いわば菩薩的実践を通じて, 利他性と世界への責任を内面化するところに, 新湯の学びの核心的意義がある.
3. まとめ
本稿では, 十和田八幡平国立公園内に位置する教育施設「新湯」の教育理念と実践の構造を, 環境思想および現代の技術文明論との対比をもとに整理した. そして, 新湯憲章は野外教育の理論と実践を基盤としつつ, 環境収容力の尊重, 適正技術の活用, 価値教育に基づく協働, そして身体性を伴う生活実践の継承という, 単なる施設運営方針でなく, わたしたち人間が特定の土地に「住み続ける」ための倫理と行動原理を育む教育枠組みでもある. これらは, R. Dasmann や P. Berg の Reinhabitation, T. Ingold の Dwelling perspective, J. Gibson のアフォーダンス論などが示してきた関係論的環境観と共鳴している.
また, イーロン・マスクの Multiplanetary species 構想に象徴される「外部への拡張」による存続戦略との対比を通して, 新湯の学びが「すでにある場所に住み直す」ことを通じて持続可能性を模索する, もう一つの文明的選択肢を目指すことを明らかにした. 技術を否定するのではなく, 環境収容力の範囲内で節度をもって活用する姿勢は, 開発と保全の二項対立を超えた省察的な教育アプローチに位置づけられる. なお, これらの詳細な理論的検討は別稿に委ねる.
さらに, 宮沢賢治の言葉を精神的指針として掲げた第5項は, こうした実践を支える倫理的・哲学的基盤を与えている. 個人から社会, さらには宇宙へと意識を拡張する, 仏教の縁起的世界観と, 「求道すでに道である」というプロセス重視の実践は, 新湯における共同生活や労働体験を, 単なる技能習得ではなく身体化された学習(embodied learning)としての人格形成の営みへと意味づける. 本研究は, 新湯を局地的な実践にとどめず, 高度に技術化された現代社会において人間と環境の関係性を再統合するための教育モデルの一類型として位置づけるものである. 今後は具体的な学習成果の評価や他地域への展開の可能性の検討が課題となる.
文献
鈴木敏之. (2021). 諸外国の教育課程における人間性の涵養 (学校における教育課程編成の実証的研究報告書 2)(令和 2 年度 プロジェクト研究調査研究報告書) (Doctoral dissertation, National Institute for Educational Policy Research).
松田雅司, 鈴木陽大, 井岡聖一郎, & 村岡洋文. (2017). 北八甲田火山群, 新湯断層周辺における地熱熱水の化学特性と 貯留層温度の評価. 日本地熱学会誌, 39(2), 73-79.
Berg, Peter (1982). “Figures of Regulation: Guides for Re-Balancing Society with The Biosphere.” Planet Drum Bundle #8.
Dasmann, R. F. (1988). 12 Toward a Biosphere. The Ends of the Earth: Perspectives on Modern Environmental History, 277. Worster, D. (Ed.). (1988). The ends of the earth: Perspectives on modern environmental history. Cambridge University Press.
Ingold, T. (2021). The perception of the environment: essays on livelihood, dwelling and skill. Routledge.
The Shin-yu Charter and Its Educational Significance:
Practicing Reinhabitation in Contrast to the Multiplanetary Species Vision
Kimiharu TO 1, Toyoshi SASAKI 2, Shinji SHIMOJO 3, Kinji GOTO 2,
Wataru MAEDA 2
1 Department of Sociology, 2 Department of Business Administration, 3 Depart-ment of Information Technology
要 旨
本稿は, 十和田八幡平国立公園内に位置する教育施設「新湯」の憲章を手がかりに, その教育理念と実践構造を環境思想および現代の技術文明論との対比から考察するものである. 新湯の実践は, 野外教育の理論と実践を基盤とし, 環境収容力の尊重, 適正技術の活用, 価値教育に基づく協働, 身体性を伴う生活実践という四つの原理を統合する教育枠組みとして整理される. これは単なる体験活動ではなく, 特定の土地に住み続けるための倫理と行動原理を育む試みである. さらに, イーロン・マスクの Multiplanetary Species 構想に象徴される「外部への拡張」との対比を通して, 新湯の学びが「すでにある場所に住み直す」ことによる持続可能性の模索という, もう一つの文明的選択肢を提示するものであることを明らかにした. 宮沢賢治の思想を精神的基盤として位置づけ, 人間と環境の関係性を再統合する教育モデルとしての意義を示す. キーワード:野外教育, 棲み直し(リインハビテーション), 居住を通じた実践的認識論, 身体化された学び, 持続可能性
[1] 例えば, 米国ロックシンガー ジャクソンブラウンの作品For everymanの歌詞とその経緯を参照. また, およそ同時期のback-to-the-land movementも同じ系譜の社会運動と位置づけられる.
[2] 次のリンクを参照. www.reddit.com/r/SpaceXLounge/comments/18s51ck/musk_not_eager_to_take_starlink_public/